パリ西南の隣町ブローニュ ビヤンクール市(Boulogne-Billancourt)にあるユダヤ系フランス人銀行家であったアルベール カーン(Albert Kahn;1860年~1940年)の膨大なコレクションが展示されているアルベール カーン美術館/博物館(Musée Albert Kahn)。その北にはすぐ同じく著名なユダヤ系銀行家のロスチャイルド公園(Parc Edmond de Rothschild)、その更に北には広大なブローニュの森(Bois de Boulogne)が広がります。この周辺は、今でもかなり多くのユダヤ系フランス人が住み、シナゴーグやユダヤ人学校が点在、非常に治安の良い地区でもあります。
元々アルベール カーンの邸宅であった同美術館は、1990年に美術館としてオープン、その後6年間の工事を終え去年春に再オープン。12月上旬にやっと行ってみました。有名日本人建築家隈研吾の設計によって生まれ変わった同美術館。とてもモダンな建築の美術館の入口、美術館に入るやいなやジャポニズムを感じ、 «木 »を基調としてつくられたエントランスが人々を何故かほっとさせます。
アルベール カーンは、銀行家であると共に慈善家でもあり、丁度反ユダヤ主義が強まり始めていた時期である1989年には私財を投じて、世界周遊(Autour du Monde)と呼ばれる奨学金制度を設けてアルベール カーン財団を通じて多くの若者を1年以上の世界周遊に送りだし始めました。世界を直接知ることによって、彼等の様々なスキル、能力、将来の指導力…等を豊かにする様努めたのです。又1908年には自身も写真家を連れて15ヶ月の米国~日本~中国、と世界一周旅行へ。その翌年1909年には南米へ。そして同年、世界50~60カ国に写真家を派遣して世界各地の民族やその生活、文化を撮らせる、と言うプロジェクト、地球映像資料館(Les Archives de la planète)にも取り組みます。
これらの周遊中に撮られた数々の写真や映像が同美術館に展示されているのです。
エントランスを抜けてまず一階の展示室へ。ドアを開けると、最初これは何?と思わせられる不思議な空間が広がっており、これが地球映像資料館(Les Archives de la planète)です。全て世界中の当時(1900年第初頭)の様子、風景、光景、人々、その生活等が映された写真です。あまりの数で一枚一枚は見れませんが。
こちらはデジタルアーカイブ。
一階をさっと見た後は外の庭園へ。
1895年にこの敷地を所有した彼はその後造園家と共に19世紀の様々なスタイルの風景をこの庭園に取り入れていきます。
アルベール カーン自身が長く住んだこの4ヘクタ−ル近くある広大な敷地内には、まず日本庭園が。
当時わざわざ日本から職人や庭師を呼び寄せて造ったそうです。
そしてフランス庭園や英国庭園もあり、見事に調和されています。
同美術館訪問当日は雨であった為、長くは庭園にいられずまだ全部はまわっていませんが又戻るつもり。
庭園を軽くお散歩した後は、美術館2階へ。
彼自身の世界周遊(Autour du Monde)の記録写真、映像が立ち並びます。
1908年11月13日にフランスシェルブール(Cherbourg)を発ちまずニューヨークへ。
丁度ヨーロッパ人のアメリカ大移住の時期で、アメリカへの大量な移住者達と共に大西洋を渡る様子や
1900年代初頭のニューヨークの様子、その後アメリカ大陸横断、
ハワイ経由で明治時代であった日本へ、その滞在記録、
その後中国、中東、イタリア…パリ、ととにかくアルベール カーンと共にまるで自分までが当時に生き、一緒に世界周遊をしている様な感覚にさせられる所がこの美術館の魅力かも知れません。
1900年代初頭の世界、日本人でも滅多に見る事ができない?明治時代の日本の様子が写真や映像で一般に公開されて観れるって、かなり貴重なコレクションだと思います。
同美術館、庭園を訪問後は、何だか異次元空間にいた様で何とも言えない不思議な気分に。
国際対話と平和に非常に熱心であったアルベールカーンは世界の平和を信じ、致命的な国際紛争を防ぐためには、他国についてより知識、理解を深める事により、より良い関係を築いていけると考えていた様で、同美術館の彼の膨大なコレクションや、様々な国のスタイルが入り混じった庭園を通じて、そんな彼の強い思いを体感する事ができると共に、1900年初頭に彼の様な、世界に目を向け、それぞれの国、文化、そして民族をこれだけリスペクトした人が当時いた、と言う事にも驚かせられます。
結局、彼自身世界を旅して、その国々の現実、文化、人々と直接触れ合った事が彼をこの様な人間にしたのでしょう。確かに、非常にコスモポリタンな街であるパリでは色々な民族、人種、文化との接触があるのが常日頃で、彼の思いも良く分かる気がします。
存命中に第一次世界大戦を経験し、丁度第二次世界大戦勃発後の1940年に他界した彼。ユダヤ人迫害がヨーロッパ中に迫ってきていた時期だけにある意味彼は幸いだったのかも知れません。彼がこのブローニュに造り上げた国際平和の桃源郷とはあまりに真逆の世界にその後なってしまっただけに。。。
パリの一般的に有名な美術館とは一味違うアルベール カーン美術館。パリ在住者に、又パリ旅行時にはお勧めの美術館です。
最後に、同美術館訪問動画を興味がある方はご覧ください。